エストロゲンについて

エストロゲンの効果作用

女性ホルモンの代わりになる植物エストロゲン

植物には、女性ホルモンと同じような働きを持つ自然の成分があります。

これが植物エストロゲンで、いまいちばん研究が進んでいるのが大豆に含まれるイソフラボンです。

そもそも大豆イソフラボンが注目されるようになったのは、日本の女性の体質が、外国女性には見られない特異な傾向を持っていたからです。

以前から指摘されていたことに、日本人のカルシウム不足があります。

たとえば欧米では1日当たり1000~1200ミリグラムもカルシウムをとっていますが、日本人は570ミリグラム前後。

欧米人の半分程度しかありません。

もともと日本の土壌は火山が多く、ヨーロッパなどに比べるとミネラルが少ないといわれています。

ですから水や野菜にもミネラルがあまり含まれていません。

そのうえ日本人は、これまであまり乳製品を食べてきませんでした。

カルシウムは、もっぱら小魚や海藻からとっていたのです。

ところが小魚や海藻のカルシウム吸収率はわずか3割程度。

乳製品にはとても及びません。

日本人はカルシウムの摂取量が少ないうえに、吸収の悪いものからカルシウムをとっているのですから、カルシウム不足に陥るのも当然のことです。

ところが驚くことに、日本人女性の大腿骨の骨折率は、アメリカ女性の3分の1しかありません。

しかも日本人は、アメリカ人の二分の一しかカルシウムをとっていないのにです。

カルシウム摂取量が少ないのになぜ骨折が少ないのか。

こういう疑問がわいてきました。

もう一つの疑問は、更年期を過ぎた女性の心筋梗塞のリスクが、日本人女性は非常に低いことです。

女性ホルモンにはLDLコレステロールを低下させたり、血圧を低下させる作用があることは、第2章で述べました。

したがって更年期以降女性ホルモンが分泌されなくなると、コレステロールや血圧が上がり、心筋梗塞のリスクが急激に高くなります。

ところが日本や中国の女性は、欧米女性に比べるとそのリスクの上昇が非常に低く抑えられているのです。

これらの疑問を解くなかで浮上したのが大豆でした。

そして研究が進むなかから、大豆にはエストロゲンに似た化学構造の物質が含まれていることがわかりました。

これがイソフラボンです。

日本の女性は、大豆のイソフラボンをたくさんとっていたために、カルシウムが少なくても骨折せず、更年期過ぎの心筋梗塞も防げていたのです。

植物エストロゲンの女性ホルモン様作用

大豆イソフラボンの作用については、最近になってかなり解明されてきました。

イソフラボンの研究では世界的な権威といわれている京都大学大学院の家森幸男教授は、1985年からWHO(世界保健機関)の協力を得て、世昇25力国60地域の人たち(84~56歳の男女)の食べ物と健康の関係を調べてきました。

その中で、イソフラボンの作用もいろいろわかってきました。

家森教授の研究によると、尿にイソフラボンがたくさん出ているところほど心筋梗塞が少なく、長生きであることがわかっています。

イソフラボンは尿中に排泄されるので、尿を調べれば大豆食品をどれだけ食べているかわかるのです。

家森教授は、沖縄からブラジルに移住した女性に大豆イソフラボンを食べてもらい、どんな変化が出るか調査しました。

ブラジルでは大豆を食べる習慣がありませんから、大豆、つまりイソフラボンを日ごろ食べていない人たちです。

1日に食べてもらった量は、50ミリグラム。

これは、豆腐100グラムに含まれるイソフラボンの量で、1日の必要量です。

被験者たちは更年期の女性で、コレステロールや血圧をかなり高めでした。

大豆イソワラボンを食べるようになって3週間目。

変化が現れてきました。

更年期の症状が消え、高かったコレステロールや血圧が下がってきたのです。

同時に骨も丈夫になりました。

骨が丈夫になったかどうかは、尿に含まれるピリジノリンとデオキシピリジノリンという物質で調べます。

この2つは骨を作っているたんぱく質に含まれる成分で、骨が溶け出すと尿の中に出てきます。

被験者の尿中のこの数値を測ると、2つとも低くなっており、反対にイソフラボンが増加していました。

このことから、大豆イソフラボンによって骨からカルシウムが溶け出すのが抑えられたことがわかります。

また、次のような面白いデータもあります。

沖縄からハワイに移住した70歳以上の女性の骨密度を測り、骨密度の高い人、中くらいの人、低い人の3グループに分けます。

そして尿中のイソフラボンの量を測ると、見事に相関していたのです。

すなわち骨密度の高い人は尿中イソフラボンが多く、低い人は少なかったのです。

大豆イソフラボンが女性ホルモンの代わりに更年期過ぎの女性の骨を守っていることが、このデータからもよくわかります。

大豆イソフラボンの研究は、海外でも盛んです。

アジア諸国に心臓疾患が少ないことから大豆に注目したアメリカの医療機Mayo Clinicは九八年、「イソフラボンを定期的にとると、コレステロールを10パーセント抑制できる」という研究結果を発表しました。

これを受けて、米国FDA(食品医薬品局)は、大豆プロテインを含む食品に「心臓の病気に効果的」という表示を与える意向を示しているそうです。

動物実験でもエストロゲンの作用が確認された

大豆に含まれるイソフラボン類は、12種類あります。

その中でも多いのはダイズイン、ジェニスティン、グリシチンなどです。

ダイズイン、ジェニスティンはプエラリアやクズに含まれるイソフラボンと同じです。

イソフラボンは味噌や醤油を作ったあとの廃棄物の中にたくさん含まれているのだそうです。

そういうものから取り出したイソフラボンを使って、動物実験も行われています。

静岡県立大学薬学部では、骨粗しょう症の予防効果を調べました。

ラットから卵巣を摘出し、更年期の状態を人工的に作り出します。

そのラットを、何も与えないグループと、ダイズイン、ジェニスティン、エストロゲンの一種であるエストロン、骨粗しょう症の薬であるイブリフラボンそれぞれを与えたグループに分けます。

4週間後、それぞれのグループのラットの骨密度を測ると、何も与えなかったラットの骨はもろくなっていましたが、ダイズイン、ジェニスティン、エストロンを与えたクループは同じくらい骨がしっかりしていました。

イソフラボンはたしかに、エストロゲンと同じように骨粗しょう症を防ぐことがわかります。

また肥満についても、ラットで実験しています。

女性は更年期を境に太りだし、体型も変わってきます。

それを防げるかもしれないという、期待の持てるデータです。

卵巣を摘出したラット(更年期ラット)と摘出していないラットにまったく同じ内容・量の食事を与え、体重を比べます。

すると卵巣を摘出したラットのほうが重くなり、体脂肪率も増加していました。

体についた脂肪は、おもにお腹の中につく内臓脂肪でした。

ところが更年期ラットにイソフラボンを与えると、腹部の脂肪や体重が増えず、ふつうのラットとほとんど変わりありませんでした。

女性の肥満は、若いうちは皮下脂肪型が多いのですが、更年期を過ぎると男性に多い内臓脂肪型が増えてきます。

これは女性ホルモンの低下によって脂質の代謝が変わるからですが、この更年期過ぎの肥満をイソフラボンが防ぐことがわかったのです。

内臓脂肪が多くなると、糖尿病や高血圧、動脈硬化など、生活習慣病のリスクも高くなります。

イソフラボンはそうした内臓脂肪型肥満を解消し、生活習慣病を防ぐ役目もありそうです。

ガン予防の効果にも注目

このようにイソフラボンは立派に女性ホルモンの代用になりうることが、多方面からの調査・研究でわかってきました。

しかし必ずしも、女性だけに朗報をもたらすものではありません。

男性にとっても有益であることが動物実験でわかりました。

前立腺ガンを抑制するのです。

この実験はヽ筑波大学や国立ガンセンター研究所などが中心になって行われました。

ラットに前立腺ガンを誘発する物質を投与し、大豆イソフラボン(ダイズイン、ジェニスティン)を混ぜたえさを与えます。

50週間後、ガンの発生率を見ると、イソフラボンを与えなかったグループでは51パーセントだったのに対し、イソフラボンを与えたグループでは35パーセント(イソフラボン濃度100ppm)、29パーセント(同400ppm)と、有意にガンの発生が抑制されていたのです。

前立腺ガンの発症には、女性ホルモンが関与しているといわれています。

女性ホルモンの分泌が少なくなってホルモンバランスが崩れると、前立腺ガンを発症しやすいのです。

そして治療に女性ホルモンを使うと、ガンが抑えられることもわかっています。

その女性ホルモンのかわりにイソフラボンをとれば、前立腺ガンを予防できる可能性があるのです。

また不思議なことですが、イソフラボンには乳ガンを抑える作用もあるのです。

これを聞いたときは、私も驚きました。

前にも述べたように、乳ガンはエストロゲンの影響下で発ガンリスクが高まります。

それなのに、エストロゲンと同じような作用をするイソフラボンがガンを抑えるとは、どういうことでしょう。にわかには信じられません。

それを証明するのは、次のような実験の結果です。

試験管の中にヒトの乳ガン細胞を入れ、エストロゲンを加えると乳ガン細胞が増えます。

ところがイソフラボンを一緒に加えると、その増殖が抑えられるのです。

また疫学調査でも、大豆イソフラボンをたくさん食べているところは乳ガンの死亡率が低いことがわかっています。

平均的な日本人の1.5倍豆腐を食べている沖縄・名護市の女性は、乳ガンによる死亡率が日本でいちばん低いのです。

なぜイソフラボンには、乳ガンを抑える作用があるのでしょうか。

イソフラボンには不思議な働きがあって、自分がエストロゲンの作用を持ちながら、もっと作用の強いエストロゲンに対してはその働きを抑える「抗エストロゲン作用」があるのです。

抗エストロゲン作用とは、こういうことです。

エストロゲンもイソフラボンも、同じエストロゲン受容体に入っていきます。

このとき、作用の弱いイソフラボンが先に受容体に入り、強いエストロゲンの作用をブロックするのです。

これと同じ原理で環境ホルモンもブロックされることが、実験でわかっています。

前立腺ガンも乳ガンも、以前は日本人に少ないガンでした。

しかし近年の食生活の変化で、どちらも急速に増加しています。

その増加の理由が、これまでは高脂肪・高タンパクの食事にあるといわれていましたが、それよりもイソフラボンをとらなくなったことのほうが影響は大きかったのではないでしょうか。

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